罪は消えない鎖。

罰は罪を償うためのもの。

忘却は赦しの証明。

決して忘れてはいけない、購いきれない罪が、あった。

だから、私は時を止めて生き続ける。

罪を、忘れさせないために。忘れない、ために。

……それが、ボクの生きてきた意味。



パッフェルがおねえさんの護衛獣を名乗る悪魔を連れてきた時、正直、私は心のどこかで安堵を覚えていた。

「それで、私に何の用かな?」

「メガネはどこにいる?」

「ネスティ・ライルなら部屋に……」

「いる訳ねェだろ。お前等があの状態のメガネを放っておく筈がねェ。言えよ。ヤツをどこに幽閉した?」

「…………」

私は、黙るより他がなかった。

バルレルは舌打ち一つ。

「だんまりかよ。なら――」

す、と。彼は私の鼻先に槍の穂先を突きつけて見せた。

「喋らせるまでだ」

「…………」

パッフェルは、無表情に近い顔でこちらを見ていた。

ネスティ・ライルと何度か会話のあった彼女は、彼との誓約により沈黙を続けている。

……でも、本当の心情は私と同じなのだと、分かる。

すべてを誰かにぶちまけてしまいたい、と。

……それはただの、自己満足にしか過ぎないのは、分かっていても。

ふと、バルレルの構える穂先が目に映った。

銀色の刃から、私が私を見返してくる。

その視線は、自分でも奇妙な位に冷静だった。

「……ラウルに会うといい」

「?」

「ラウルはネスティ・ライルと誓約をしていない。だから、彼の所まで君を連れて行ける」

「誓約、だと……?」

召喚士達はあらゆるものの本質の名を知ることができる。

その本質の名は、あらゆる事象を制する。

そして、本質の名はあらゆるものにある。

私にも、彼にも。ネスティ・ライルだって例外ではない。

本質の名を交わしてした約束は、召喚による誓約と変わりはない。

「ボク達は、彼と「全ての事を隠蔽する」と誓約した身でね。これ以上の事は話せない」

「……はン」


鼻を鳴らして、彼は槍を収めた。

くるりと私に背を向けて、部屋から出てゆく。

ドアに手をかけたところで、ふと立ち止まり、彼は問うた。

「ジジイはどこだ?」

「部屋で君の主人と会っているところだろうな」

私の答えに何も言うこともなく、彼は部屋を出て行った。

パッフェルがふう、とため息をついた。

「……いつもすまないね」


「いえいえ、仕事ですから」

どこまでが本当か分からない笑みを浮かべるパッフェル。

それが、ありがたかった。

目を閉じる。

「ネスティ・ライルはどうしてる?」

「体のほうは小康状態を保っているそうです。しかしそれは一時のものでしかないと」

「……じゃあ、精神、は?」

目を開く。

視界に入ったパッフェルの顔はもう笑ってはいなかった。

「……もう限界が近いでしょう。いまだに自分を保っていられるのが不思議なくらいです」

「わかったよ」

少しでも、胸の奥にある冷たいものを出してしまいたくて、私は大きく息を吐いた。

「もういいよ。パッフェル」

「はい、エクス様」

パッフェルが部屋を出てゆく。

その足音を聞きながら私は深く椅子に腰をかけ目を閉じた。

何も聞きたくない。見たくもない。

いまは、自分の判断が正しかったかなんて、考えたくはなかった。

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